フィルムの中の君
そして翌日の朝、水島に起こされリビングに向かった昴はテレビを点ける。
天気予報やその日のニュースを告げたアナウンサーが、ガラリとテンションを変え次のコーナーに入った。
『さて!次は…
今夜9時から放送の話題のドラマ!
黒鳥(ブラックバード)です!!!』
ピアノ曲と共に流れてきたのは予告用の映像。三枝や他の役者たちが次々と映っている。そして昴のセリフで予告は終わり、出演者インタビューのコーナーへと移った。
『ご覧の皆さん、おはようございます。
菱川俊蔵役の野上和彦です』
『菱川蘭役、櫻井昴です!』
画面に映った大物俳優とのツーショットに緊張のあまり胃が痛む昴。
何も今撮影してるわけじゃないのに…とキリキリする胃を押さえながら見ていた。
役柄の上だけではなく、野上とは実際に親子ほど年が離れていた。無口でクール、怖いという噂は昴も聞いていたが、実際会ってみるととても優しい男性。
世の中の女性たちがダンディでクールだと騒ぐ理由もわかる気がする。
2〜3分のインタビューという名目の予告はあっと言う間に終わり、アナウンサーの話は次のコーナーへと入っていた。
「ほら撮影行くよ昴!」
テレビに夢中になり手が止まっていた昴に怒る水島に、ごめんなさい!と謝りながら支度する。
「あ〜、ついに今日からかぁ…」
隣の助手席でぼそっと呟く女優の額に左手を当てると、水島はペチッとデコピンをした。
「痛いよ水島さーん!」と額を押さえる昴を笑う。
「主演女優がなんて情けない顔してんのよー。始まるもんは始まるんだから覚悟決めなさい、昴!」
昴とて覚悟してドラマの主演を演じているのだ。しかし実際に放送となると緊張してしまってどうにもならない。
撮影より放送の方が緊張する〜!
と嘆く女優に二回目のデコピンをし、水島は現場へと送り出した。