フィルムの中の君
『まるで無法地帯ですね』と原田。
『まるで、なんかじゃありませんよ。
ここでは法なんて関係ない。
あるのはこれのみですからね』
トントン、と斎藤は自分の頭を人差し指で差す。
『確かに貴方の言う通りだ斎藤さん。
信じるのは己のみ、ってことですからね』
切り終えたカードの山を目の前に再びポーカーは始まった。
(えっ、どうしよう…何これ…
ポーカーなんてわからないよ!)
思っても声には出せず演技を続ける昴。
それでもどんどん順番は回ってくる。
そこでふと足に感じた感覚にちらりと足元を見ると、隣に座っていた優が右手を動かし何やら合図を送っていた。
よく見ると2、9と合図している。
(これを捨てろってこと…かな?)
わからぬままハートの2とダイヤの9を指示通りに捨てる。
『雪村さんもなかなか手強そうだね』
と笑みを浮かべる斎藤。
『何を仰いますか、
貴方ほどではありませんよ』
完全アドリブ状態でセリフを繋げるものの、内心不安でそれどころではない。
それから優はカメラの死角になる椅子の陰で昴に合図を送り続けた。
アドリブが始まり5巡目が回ったころ、
『チェスだったら今頃女神は微笑んでるだろうに』と冗談を言う原田。
ふっと笑いカードを顔の高さで持ち替える優。
口元を隠しながら左隣にいた浪川に口を動かし何やら伝える。
その意図を汲み取り目だけで頷いてみせた。
『今回はダメみたいだ…フォールドしますよ』
苦笑いをし敗北宣言する柳田。
この時点で柳田の負けは決まった。
『わかりました。
ではSHOW DOWNといきましょう。
まずは雪村さんから』
手札を公開し、ため息を吐く。
『私もまだまだですね』と雪村。
『次は…』
ここから台本通りに戻そうと優がセリフを言いかけたところで、藤森が口を挟む。
『斎藤さん先に開いてください』
『おや、どうなさったんです?』
『私も自分の後に手札を公開させるほど悪人じゃありませんからね』
要するに藤森は自分が勝ちだと誇らしげに言っているのと同じだった。
ほう、そうですか…。と、斎藤。
『こちらもその点は配慮したつもりでしたよ。まぁ貴方が惨めな姿を晒そうが、私にはどちらでも構わないのですか』
その言葉に原田…いや、藤森は素で優に嫌味を込めた笑顔を向ける。
『原田さん、ここはお先に』
と勧める柳田。
浪川に言われたとあって仕方なく手札を広げた。