フィルムの中の君
『フォーオブアカインド』
滑らかな声で高らかに宣言する原田。
既に勝利が決まっているかのような表情で藤森は優を見た。
『さぁどうぞ』と右手を優に向ける。
『最後、私の番ですね。それでは…』
ゆっくりと5枚のカードをテーブルの上に置いた。
それを見た藤森は演技を忘れ目を丸くしている。
『ロイヤルストレートフラッシュ。
どうやら私の勝ちのようですね』
カーーーーット!!!!!!
長いカメラ回しにカットがかかるとスタジオ中からざわざわと騒めいている。
ロイヤルストレートフラッシュを出したことへの驚きの声。
その中でも1番驚いたのは藤森だった。
「なんでスペードでロイヤルストレートフラッシュが揃うんだよ!」
「クイーンは先ほど藤森さん捨てられたカードですよね、ハートのエースを上に置いて一緒に。キングは確か浪川さんが」
でもカメラはそこ撮ってませんでしたから大丈夫ですよ、と付け加える。
捨てたカードまで覚えてる優に鳥肌が立った。
「いや、藤森もよくフォーカード揃ったな」と浪川が言う。
そして申し訳無いと言って浪川は3人に頭を下げた。
「本当ごめん、俺がカードの枚数間違ったからあんなことに…。長丁場なアドリブまでしてもらって、本当に申し訳無い。偶然にも宮藤くんがカード揃えてくれたのが幸いだったよ…」
ありがとう、と優を見る浪川。
「さっきのは偶然なんかじゃありませんよ」
にこりと笑う優。
「え?どういう…」
「『腕』には自信あるんです」
失礼します、とそれだけ言い残して休憩を取りに休憩室へと向かっていった。
少し会話した後昴はその後を追っていった。
歩幅が大きく歩くスピードが違うため、昴が向かったころすでに優は休憩室にいた。
「優!さっきのどうやったの!?」
「お疲れ、まぁ座りなよ」
目の前の自販機でココアを買うと、そのカップを昴に手渡した。
「ありがとう…あ、お疲れ様。
藤森さんの捨てたカードってずっとテーブルの中央にあったよね?」
藤森のものだけではなく捨てたカードには一切手を触れていない。
それは全員が見ていた。
「あぁ、それか。でも役完成させるにはスペードのあのカードが必要だったんだよね。だからちょっと…ね」
他言無用な、とイタズラっ子のような笑顔を浮かべる優。
「それより優ポーカー出来たんだね」
根本的なところに驚く昴。
「ポーカーが1番ちょろまか…いや、得意なんだよね」
思わず出かけた言葉を抑える。
この先撮影現場では優の武勇伝が噂され続けていた。