フィルムの中の君
「昴、今日は俺と話してくれるんだ」
思わず手に持っていたココアをカップごと落としそうになる。
「えっ!?あ…その…」
ごめん冗談冗談、と笑う優。
「でも最近避けてただろ?」
避けてたと言えばそうなるかもしれないが、それは優に迷惑をかけまいと思ってとった行動だった。
「そのっ…あの…本当ごめんね」
核心を突かれ目が見られず昴は俯いたままだった。
昴、と囁くような声が上からする。
「何かあった?」
立ったまま優は心配そうに顔を覗き込んだ。
本気で心配してくれていることがわかるからこそ、尚更目を合わせられない。
「……ごめんっ」
耐えられずに飲み干したカップを捨て昴は走り去るように休憩室を出て行った。
残された優はやり場のない感情をどうしたらいいかわからず、思わず壁を叩きつける。
鈍いコンクリートの音が響いた。
(俺何かした…?
言ってくれなきゃわかんねーよ)
こういう話は蔵之介や海斗に言えば相談に乗ってくれるだろうことはわかっているが、この後の撮影もあるため電話をかけるわけにはいかない。
「あっ、いた、宮藤くん!」
大きな足音と共に立ち尽くしている優の元へ来たのはマネージャーの平井だった。
「平井さん…どうしたんですか?」
「そろそろ君のシーン撮るから戻ってきて!」
壁に掛けられた時計を見ると、ここへ来てから既に20分近く経っていた。
感情的になり時間の感覚さえ鈍くなっていたことに気付かされる。
「すみません、すぐ戻ります!」
それから演技での関わり以外、昴と優は会話することがなかった。