海深々く
序章



大砲が鳴り響き、老若男女が入り乱れて踊る。
その光景を肴に我が国最上級の酒を傾けながら隣に座る彼女に微笑んだ。
ある夏の日、本日は晴天ナリ。数ヶ月、あるいは一年以上前の大嵐を思えば本当に海というのは秋の空よりも変わりやすいものだとつくづく思う。しかしながらあの嵐がなければこうして彼女と出逢えなかったわけで。

「本当に、君には感謝している。あの時は…本当にありがとう。」
純白に包まれた華奢な手を握り、そっと唇を落とせばミカエラは恥ずかしそうに手を引っ込めた後少しだけ拗ねたような素振りを見せながら
「“愛してる”とは言ってくださらないのですか?」
と微かに笑う。
「愛しているさ、ミカエラ。君と結ばれる俺は…世界一の幸せ者だ。」

船首で切り分けられた波を追うようにイルカが走り、かもめが歌う。ばしゃん、と大きく水が跳ねてトビウオが宙を舞った。

厳格ながらも時に温厚で毅然と国を治める父、その横でいつも穏やかに微笑み見守ってくれる母。
そしてこの日、俺には新しく大切な人ができた。



俺と彼女が出逢ったのは正に運命と言うべきだろう。
俺の誕生パーティが海上で開かれ、浮かれていたせいで悪天候の兆に気付けず、嵐に巻き込まれて難破。陸に流れ着いた俺は意識がなかったのだが偶然通りかかった彼女…ミカエラが俺を見つけ、保護してくれた。聞いたことのないほど透き通った歌まで聞こえていた気がする。きっとあれは天界の天使の声だ。
それからいろいろあって結局彼女から求婚され、結婚。遠い遠い国から来たという彼女は従者一人を連れて俺の元に嫁いできた。
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