風は囁く「君と輝きたいから」
 彼は丁寧に頭まで下げ、腰を下ろした。

そして、さらり「お目玉は食らいたくないからな」とペンを走らせ微笑む。

失態をフォローしてくれたーーそう思い、彼の顔に目を移す。

彼は既に澄まし顔だった。

「いつできる?」

 CMプロデューサーが、なるだけ早い方がいいと言いたげに訊ねる。

「指定していただければ期限までに。あの……今、浮かんでいるイメージを弾いてもよろしいですか?」

「えっ、即興で弾けるの?」

 CMプロデューサーやフローラ化粧品広報など関係者が顔を見合せ、一同に訊ねる。

彼は質問にはお構いなしに、澄まし顔でヴァイオリンを取り出し、スクッと立ち上がった。

颯爽とヴァイオリンを構え、ありえないくらい冷静に演奏し始める。

軽快なアップテンポで奏でられる曲は、新緑が爽やかに香る感じや生命が芽吹くというイメージも、即興なのに見事にクリアしていると思う。
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