風は囁く「君と輝きたいから」
「昨日、Nフィルで詩月の様子を見たんだ……。あんな緊張感の中で演奏しているなんて思わなかった。嫌がらせされているっ話は聞いてたんだ……。練習後、ひと息ついている時にかけられた言葉が『ローレライ』なんて酷いと思わないか?」

俺は、また「ローレライ」かと思った。

詩月さんの演奏を聴いて、「ローレライ」なんていう人がいる。

歌声で、船乗りを惑わし遭難させる怪物。

詩月さんの演奏が「ローレライ」に喩えられることが、俺にはどうしても信じられない。

Nフィルのコンサート終了後。
控え室前で見た、赤文字の「ローレライ」で埋め尽くされた楽譜。

倒れてもおかしくない――そう思った。

俺は扉の前で深呼吸して、病室に入る。

詩月さんはベッドの上で、指を握ったり開いたりしていた。


「詩·月·さん」

アイドルスマイルで呼んでみる。

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