風は囁く「君と輝きたいから」
点滴やモニターの線、幾つもの管に繋がれた痛々しい姿。

フローラ化粧品のポスターや、CM画像に映っている爽やかさも晴れやかさも、華やかさも、どこにもない。

これがアイドルグループXceon(エクシオン)の俺たちを差し置き、CMのメインに映っている詩月さんかと、思わず目を擦る。

同一人物とは、とても思えない。

詩月さんの口が動く。


――遥……どうして

声は聞こえなかった。

碧い大きな目が、じっと俺を見つめる。


「雨で撮影が流れたから会いに来たんだ」

詩月さんは何か言いたげに「あ……」と漏らしたけれど、何も聞かない。


「椅子、あるだろ」

広げた楽譜を揃えて、ファイルに仕舞う詩月さんの指。

爪が薄い紅紫色だった。


「用心してたんだけどな……4月に入ってから、気温が上がって……」

ポツリ、こちらを見ずに話す。

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