風は囁く「君と輝きたいから」
「……言えなかった……辛いとか恐いとか……ICDなんか嫌だと……」

首筋に冷たいものを感じた。

どう声をかけていいのか?「大丈夫だよ」ではないなと思う。
「思い切り泣いていい」も違う気がした。

詩月さんは、声を上げて泣かない。
嗚咽を抑え、声を殺して絡みついた腕に力を込める。

桃香さんの「ヨシヨシしなさい」と「ローレライ」と、詩月さんの「ICDなんか嫌だ」が頭の中をぐるぐるする。

言葉の代わりに、詩月さんの背中を撫でた。
優しく、ゆっくりと。

俺は詩月さんが落ち着くまで、詩月さんの涙が渇くまで側に居ようと思ったんだ。

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