風は囁く「君と輝きたいから」
俺は繰り返される「Jupiter」の旋律にドキドキしながら、彼の表情に見惚れていた。

澄まし顔の彼が、楽しそうにヴァイオリンを弾いている。

演奏している時の顔からは、近寄り難い感じは全く伝わって来ない。

こんな優しい顔で演奏するのかと思う。

俺は胸が熱くなり、僅か数分の演奏なのに、ライブ演奏でも聴いた得した気分になった。

「周桜くん、いいわ。今の演奏を楽譜におこせる?」

 CMプロデューサーよりも先に、フローラ化粧品会社の広報が彼に訊ねた。

「はい、大丈夫です」

 彼はヴァイオリンをケースに仕舞いながら、肩で息をついている。

「明日にでも楽譜が仕上げられるかい?」

CMプロデューサーが急かす口ぶりで言う。

「明日ですか。Nフィルの合わせがあるので、FAXでもかまいませんか?」

「会議終了後に、FAX先を伝えよう」

「はい」
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