風は囁く「君と輝きたいから」
桃香さんは週刊誌のことには、一切触れない。


人のことを心配している暇があるの? って、無言で問われている気がする。

夕方、仕事先へ車で向かう途中。
俺たちは、信じられない光景を見てしまった。


「周桜さんや。周桜さんがヴァイオリン弾いてるで!?」

真っ先に叫んだのは昴。

俺は、その声の勢いにハッとして「何処に?」と窓を開けて、身を乗り出した。


「あそこ、スクリーンの反対側や」

CMが映し出された巨大スクリーンの向かい側。

横断歩道を挟んだ路上で、詩月さんがヴァイオリンを弾いている姿……。


「桃香さん、止めて!! 詩月さんだ」

淡い茶色の髪の人なんて山ほどいて、顔なんか見分けがつかないはずなのに……。

遠目越し、移動する車中から、何故「詩月さんだ」と確信できたのか? わからない。

桃香さんはハンドルを切り、車をガードレール脇に止めた。
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