風は囁く「君と輝きたいから」
「妹尾さん、受けて立ちますよ。『Jupiter』で」

詩月さんの声変わりし損ねた、細い掠れ声が響く。

詩月さんは、乱れたシャツのボタンを整え、ヴァイオリンを弾き始める。

颯爽と――。

向かい合わせた妹尾さんに、聴かせるように。

目の前に妹尾さんしかいないように。

詩月さんと妹尾さんを取り囲んだ人の視線が、詩月さんと妹尾さんの交互に注がれている。

妹尾さんが詩月さんを睨んで、肩を震わせながら、ヴァイオリンを取り出す。


「あなたなんか大嫌い、大嫌いだわ」

妹尾さんは金切り声を上げ、急ぎ調弦を済ませ、ヴァイオリンを弾き始める。

詩月さんの演奏に妹尾さんの演奏が重なる。

響き合う2基のヴァイオリンの音が、「Jupiter」を奏でる。

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