風は囁く「君と輝きたいから」
「直線距離で1.5キロ、アウトだな」

詩月さんは、慌てる様子1つ見せない。


「遅刻なんて……」

詩月さんは妹尾さんのぼやきをよそに、ヴァイオリンを素早くケースに仕舞って、人垣をくぐる。

さらに高々と、真っ直ぐに手を上げる。

走り込んで来たタクシーが歩道ギリギリで、停まった。


「妹尾さん、乗って」

詩月さんは、もたつく妹尾さんの手をグィと引っ張り、後部座席へ押し込み、自分も急いで助手席へ乗り込んだ。


動画は、そこで終わった。


「周桜詩月――。何て人や……信じられへん」

昴が呟いて、パソコン画面を見つめたまま、口をポカンと開けている。

俺はドラマみたいな画像だと思った。


――周桜は病気のこと、知られたくないみたいだから、詳しいことは身内くらいしか知らないと思う


そう聞いていたのに、詩月さんは大胆にも、シャツをはだけて、手術痕の幾つもある胸までさらけ出したことが、信じられなかった。

< 137 / 325 >

この作品をシェア

pagetop