風は囁く「君と輝きたいから」
「周桜くんのお母さんが弾いてたヴァイオリンなの」


「周桜さんのお母さんって腱鞘炎で指を壊して、ヴァイオリニストを断念した……」


「そう。ガダニーニのシレーナは、たくさんの演奏家がその音色を求めて、演奏家から演奏家の手を経てきたヴァイオリンなんだけど……演奏家泣かせのヴァイオリンって言われているの」

嘘だろうって、ため息が出る。


「ヴァイオリンの音色に取り憑かれて、自分の実力を過信したり、弾きこなせずに自信喪失したり、練習で無理して、演奏家生命を断たれたヴァイオリニストがたくさんいるって伝えられているの」

頭に浮かんだ1つの単語――「ローレライ」って、口に出しそうになり、ゴクリ息を飲む。


「『ローレライ』みたいなヴァイオリンでしょ!? そしてね、ローレライを封じ込めたのは、オルフェウスしかいないの」

郁子さんは、いとも簡単に「ローレライ」って言う。
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