風は囁く「君と輝きたいから」
涙が溢れた瞳、涙に濡れた頬。
緒方さんは周桜くんを見つめている。


「……あなたが遠いの。こんな近くに……目の前にいるのに」


「……意味が」


「……あなたの手はこんなにも暖かいのに」

緒方さんは、涙を拭った周桜くんの手を見つめる。

高鳴る鼓動と火照りと苛立ちを、どう鎮めていいのかわからない。


「わたしのピアノでは……あなたに届かない」


「……違う。どんなミスも、君の……君の演奏たがら音を拾って……。
君との演奏でなければ、そこまでしない。
……途中で不協和音を鳴らしている」

周桜くんが、声を荒げる。

周桜くんの碧い瞳が、真っ直ぐ緒方さんに向けられている。


「君の音は……どんなに小さくても、どんなにズレていても全て拾ってやる。
追いつけないなんて……届かないなんて……そんな寂しいこと言うなよ」

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