風は囁く「君と輝きたいから」
口笛、甲高い声、野次が次々に飛び交う。

周桜くんは、ハッとしたように辺りを見回し、慌てて緒方さんを抱き寄せていた手を離した。


「やあ、お2人さん。今1つ、押しが足りないようだ。
万葉集の歌を1首、君たちに送ろうか。相聞歌なんだが……」

いつの間に、席を立ったのか、安坂さんがピアノの側にいた。

安坂さんの声は笑っているように聞こえるのに、顔は笑っていない。


「『紫の匂へる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我恋ひめやも』
誰が誰に送った歌だか周桜、お前ならわかるだろう?」


「安坂……さん!? 緒方の側には安坂さんが……」

周桜くんの複雑な感情が、顔にも声にも出ている気がする。


「周桜くん、誰の歌なの?」

緒方さんは不思議そうに、周桜くんを見る。


「天武天皇が額田姫王の歌に……あの、安坂さん」


「どういう意味なの?」

緒方さんは首を傾げている。

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