風は囁く「君と輝きたいから」
 新マネジャーは詩月さんが差し出した左手に「何こいつ」という顔で首を傾げる。

俺は左手の握手がヨーロッパなどでは拒否の意志、さよならの意志だと聞いたことがある。

日本では、どちらの手を出しても特別な意味にはならないが。

詩月さんは「今回で競演もコラボも終わりにします」と言っているんだと思った。

新マネジャーは右手を渋々引っ込め、左手で握手する。

「差し入れです」

 詩月さんはアルファベットのロゴ入り紙袋をそっと、両手を添えて手渡す。

新マネジャーは無愛想に「どうも」と答え、詩月さんにステージパスを渡すと「さて段取りを」と事務的に言った。

コンサートのタイムスケジュール表を広げ、控え室の椅子にドカッと腰を下ろすと、足組みをし机に片肘を付き、詩月さんを横柄な態度で見下ろした。


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