風は囁く「君と輝きたいから」
詩月さんは不安気な顔をした安坂さんとは正反対に、涼しい顔で条件を飲んだ。

ガダニーニでもなく師匠の形見グルネリでもない、楽器店所有のエレキヴァイオリンを弾くという条件を突きつけられても、嫌な顔一つせず爽やかに笑った。

「大丈夫。シレーナには怪物なんて憑いてないし、妖刀みたいに呪ったりしませんから」

 急遽「シレーナ」を弾くことになり、不安気な安坂さんを励ます余裕さえ見せた。

唯一、正調「Jupiter」しか弾けない俺たちは、詩月さんと安坂さん、金管楽器のメンバーが、「Jupiter」の他に何を弾くのかも知らされないまま――静かにゲリラライブ決行の日はやってきた。

 スクランブル交差点の反対側、渋谷駅に直結した大型商業施設ビル付近。

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