風は囁く「君と輝きたいから」
詩月さんは俺たちの歌声に合わせ、軽快にヴァイオリンの音色を響かせる。

安坂さんは見た目の優等生風なイメージを覆し、詩月さんの愛器「シレーナ」で「君と輝きたいから」を喜々として奏でる。

大学オケ部金管楽器精鋭メンバーの雄壮な音色も「正調Jupiter」から「君と輝きたいから」に切り替わった。

「貢、しっかり弾けよ。ガタニーニ『シレーナ』だからってビビんなよ」

 岩舘さんは最前列で、どこから調達してきたのか拡声器を口に当て、安坂さんに発破を掛ける。

詩月さんは巧みな技とアレンジとエフェクト機能まで駆使し、エレキヴァイオリンを華麗に操る。

中学二年生から街頭演奏をしている詩月さんは、エレキヴァイオリンを弾いても安坂さんや金管楽器精鋭メンバーの音色に全く遜色ない。

 ――ガタニーニ「シレーナ」は呪いのヴァイオリンではない。惑わしの音色は奏でない

 岩舘さんの真剣な心の叫びを感じる。

 ――「シレーナ」が、周桜詩月に曲を弾かせているのではない。周桜詩月が「シレーナ」を奏でているんだ。どんなヴァイオリンでも、周桜詩月は周桜詩月だ

 詩月さんが心の奥底から叫ぶ必死の声と、詩月さんの揺るがない自信が伝わり、俺たちはありったけの思いと声で精一杯、詩月さんや岩舘さんたちの思いに答えて歌った。

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