風は囁く「君と輝きたいから」
間崎元准教授のことは、おばあちゃんの日記にも記されていた。

4年前に、事故で大怪我をして、今もリハビリを続けている。
指の傷はかなり酷くて、ヴァイオリンで、簡単な曲を弾くのもやっとの状態らしい。


「アランが!?」


「ああ、まだ指がちゃんと動くわけではないし、聴かせられるような演奏だってできない。
けど、動かない指をさらけ出して、ヴァイオリンを教えてるんだ。
あの曲、お前がコンクール本選で弾いたチャイコフスキーの「懐かしい土地の思い出」を、リリィさんとの思い出の曲を弾きたいから、生徒と一緒に練習するんだって」


「あの指で……」


「エリザベートにまで挑戦し、エリザベートに落選した後も幾つかの国際コンクールに挑戦して、帰国後は指導者として、多くの演奏家を育ててきた人が、土素人と一緒に弾いているんだ」


「あのヴァイオリン演奏を……した人が」



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