風は囁く「君と輝きたいから」
詩月さんの目は、恐いくらい真剣だった。


「留学先は決まってるのか」


「ウィーンを希望しています」

詩月さんはキッパリと、言い切った。

詩月さんのお父さん「周桜宗月」の活動拠点。


――詩月さんは、お父さんの本拠地に挑みにいくんだ。
「周桜宗月」を越えるために


詩月さんの姿が大きく見える。

CM撮影やコンサートの時よりもずっと、輝いて見える。


「出発の予定は」


「できれば、晩秋には」


小百合さんが、詩月さんのNフィルの契約期限が、10月末には切れるって話していた。


詩月さんが留学する。
詩月さんが行ってしまう。

言葉にならない寂しさが、こみ上げてくる。


「楽しかったです。Xceon(エクシオン)と過ごす時間は、とても……」


詩月さんは穏やかに笑う。
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