風は囁く「君と輝きたいから」
演奏を終えると、マイスターが「決意したんだな、楽しみだ」と穏やかに言って僕の頭を撫でた。


「サーカスみたいな演奏をするわね。でも、楽しかったから許してあげる」

つい2ヶ月弱前まで、意地悪ばかりしていた妹尾さんが、いつものツンツンした口調で言う。


「ったく、超絶技巧演奏家も真っ青だな。
『シレーナ』が吠えているような演奏だ。
お前みたいなヴァイオリニストは初めてだよ」

コンサートマスターの如月さんは、言いながら笑い出す。


「最初は正直、こんな奴とは演奏できないって思っていたのにな。
今は10月末……契約期限が来なきゃいいって思うよ。
留学するんだろ、準備は進めているのか?」

如月さんが、口惜しそうに訊ねる。


「……はい」

僕は緊張してこたえる。


僕はこんな風に、このオケを信頼して、感情任せに演奏できる日が来るなんて思わなかった。


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