風は囁く「君と輝きたいから」
緊張と不安で過呼吸になったことも、パニックを起こしたこともある。

街頭演奏を止めなかったのが、不思議なくらいだ。

理久はあの頃のことを未だに、からかい半分に話す。


――「舞台の上でソリスト(独奏者)は孤独なの。頼れるのは自分だけ。不安や緊張でガタガタ震えて弾けないようでは、ソリストは務まらない」


師匠の教えが、僕を支えた。

5年余りを思い出しながら、ヴァイオリンを弾く。

チャイコフスキーが、ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲として作曲した曲、「懐かしい土地の思い出」――。

「瞑想曲」「スケルツォ」「メロディ」の3曲からなる、通しで17分弱の曲。

「瞑想曲」は、暗いけれど深く情緒たっぷりで、「スケルツォ」は、対照的に激しい。
「メロディ」は、ノスタルジックでありながら、爽快で明るい。

僕は3部作のなかで「メロディ」が1番好きだ。


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