風は囁く「君と輝きたいから」
変ホ長調の甘く優美な旋律。
師匠との思い出が甦る。

父の影に怯え、萎縮した心、何を見ても希望を見出だせなかった数年間。

何を弾いても周桜Jr.と呼ばれる悔しさ。

父の演奏に酷似したショパンは、周桜宗月の完全コピーだとまで言われて、封印した……。

失意のまま、過ごす数年間は、出口のない闇のようだった。

閉ざした心を抉るように、繰り返される評価と中傷、批判。


息が詰まるほどの苦しさと虚しさに、音を立てて崩れていく自信。

逃げるように転校してきた、聖諒での日々。

今、全てが何1つ無駄ではなかったと思える。

初めて、街頭演奏をしたこの場所、海岸通り公園。

僕は師匠への感謝と、留学への決意を込めて、チャイコフスキー作曲「懐かしい土地の思い出」を弾く。

< 302 / 325 >

この作品をシェア

pagetop