風は囁く「君と輝きたいから」
五月初旬。

詩月さんはそんな俺たちの気持ちや不安を知ってか知らずか、俺たちにNフィルのチケットをくれた。

「自分たちの春CMに使われた曲『Jupiter』の原曲を聴いてみるといい」

 詩月さんはそう言って澄まし顔で笑った。

俺にはその笑顔がどこか無理をし強がっているように思え、大丈夫と声をかけるべきなのかどうか迷った。

空がチケットを見つめ「詩月さん、ありがとう」と声をはずませる。

昴は何か言いたげに口ごもっていた。

俺は嬉しさと不安を抑えきれず、詩月さんに抱きつき、ギュッと抱きしめる。

「あ、遥?」

 戸惑う詩月さんを抱きしめたまま、詩月さんの背を優しく撫でる。

以前「泣いている子どもをあやすように」と、桃香さんに言われ、詩月さんの頭を「ヨシヨシ」した時のことが被る。

「遥? 抱きしめる相手が違うだろ。野郎に抱きしめられても、どう対処していいかわからない」


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