風は囁く「君と輝きたいから」
天才ピアニスト周桜宗月の息子で、その演奏を完コピーしたとか、入試で超がつくほど難しい「幻のラ・カンパネッラ」を高熱を押しノーミスで弾いたとか、信じられない話を聞かされている。

そんな詩月さんがヴァイオリニストとして、Nフィルで活躍していることが不思議に思えた。

 サンライジングホール、Nフィルコンサートの日。

 俺たちは運良くスケジュールが空いていて、マネジャーと一緒に聴きに行った。

ロビーでCMモニターに参加していた女の子を見かけた。

彼女は完全に詩月さんのファンになったのかと思うと、少し複雑な気持ちだった。


 開演30分前。

 控え室の詩月さんに会いに行くと、詩月さんは控え室の隅でヴァイオリンを胸に抱え座っていた。

CM撮影の日、車の中で俺にしがみついた時よりも悲痛な表情で、ガクガクと音が聞こえるほど震えている様子に、とても声をかけられなかった。


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