風は囁く「君と輝きたいから」
さりげなく呼びかけ演奏を再開する。

客席とオーケストラが一つになる。

爆発的なオーケストラと観客の一体感、合唱と手拍子のその中心で、詩月さんはヴァイオリンを弾いていた。

 ――どうしてそんな風に優しく笑えるんだ。あんなに怯え震えていたのに。素直に吐き出してしまえば楽じゃないか? 辛いのを我慢しないで、ありのままをさらけ出そうよ

 俺は思い切り、叫びたい気持ちだった。

 閉演のアナウンスが流れ、俺たちが大ホールを出ようとした時、舞台袖で微かにざわめきが聞こえ胸騒ぎがした。

大ホールを出て、小百合さんも一緒に急いで控え室に向かう。

「……Sie am Ende, wenn Taere, es zu tun…… unbestimmte Zeit f・r immer」

 控え室前。

詩月さんの辛そうな細い声がした。

日本語ではなかった。

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