風は囁く「君と輝きたいから」
「セラーカラーは勘弁してください」

詩月さんは、キャップを目深に被りながら呟いていた。

コンサートの後。
控え室前で、楽譜を拾いながら憔悴していた詩月さん。

その詩月さんに、辺り気にせず、駆け寄り抱き寄せた小百合さんの大胆さを思い出して、恥ずかしくなる。

なのに、詩月さんは平然としている。
何事もなかったように……。


「周桜くん、暑くなってきたけれど体は大丈夫?」

親しげに、詩月さんに話しかけた小百合さん。


「体調管理はちゃんとしてるけど……君、だれ!? 何処かで会った?」

小百合さんは詩月さんの対応に固まって、口をポカンと開けている。

俺もたぶん、同じ状態に違いなかった。

気を取り直して、詩月さんに説明する。


「ああ……演奏の後って、いつも殆ど何も覚えてないんだ。体も神経も疲労し過ぎてて」

その言葉に、更に唖然とする。

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