夢色約束
「それは違うよ」

思わず顔を上げた。


「本当はそばにいなくちゃいけなかった…それは、私のセリフだ」


「…ですが」


「父親のくせに、この子のそばにいなかった。仕事を理由にして、弱っていく香織から目をそらして。亡くなった後も、香織のいないこの屋敷を避けてこの子を一人にしてしまった」

そうか、みんな怖かったんだ。

みんな苦しかったんだ。

旦那さまが悪いわけじゃない。

愛する人が亡くなって、その人の面影が残るこの屋敷にいたくないのも普通のことなのかもしれない。


「一番寂しかったのはこの子だったのに…恨まれても仕方ないな」

愛しそうに香里奈を見つめる旦那さま。


「お嬢さまは…いや、香里奈は、恨んでなんてしませんでしたよ。小さいころ、確かに香里奈はよく泣いてました。寂しい想いもたくさんしてて、一人になったって…」


「…そうか」


「でも、あなたを恨んでいません。だって、香里奈はあなたが帰ってくるとき、確かに嬉しそうでした。それは確かなんです」

ずっと一緒にいた。

隣で見てた。

俺が言うんだ。

間違いない。


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