夢色約束


ひと通り挨拶が終わると、私は中庭に出た。

挨拶の合間に何度か見た2人の姿。

エスコートする光の姿に胸を痛めたことは否定しない。

あの場所には、いつも私がいたはずなのに。

そう思ったことも、否定しない。

だけど、それを顔に出すことは許されない。

この場所に、この状況に。

窒息しそうなくらいの息苦しさをおぼえた。


「香里奈?」


「ひ、かる………」


「どうした?こんなところで」

崩れた話し方に涙が出そうになった。


「あ、疲れたから…休憩。光は?」


「由羅のドレスがちょっと汚れて、処理してるから中庭待機」


「そっか…」

シャンパングラスに入った未成年用のカクテルを少し飲んだ。


「……………元気か」

私の隣に立って、同じように柵に腕を乗せた光が言う。


「うん、光は?」


「俺も、元気」


「そっか」

元気…………か。

風邪だってひいてない。

でも、あの時と何も変わらない状況の私は、元気だと言えるのだろうか。

あの日から、ほとんど感情の動かない私は、元気なんだろうか。


「香里奈、」


「なに……?」


「ちゃんと、寝れてるか?」

その言葉に、いろんなものが動き出した。


「うん、大丈夫だよ」

今度、光に会ったときは、笑って"大丈夫"だと言えるように頑張る。

そう決めたはずなのに。

結局、こんな貼り付けた笑顔しかできないのね。

前に進む力は、私にはなかった。


『元気なわけない』

『寝れるわけもない』

現実なんて、そんなものだった。
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