夢色約束
~光side~


「なぁ、光ー?」

昼休み、屋上のフェンスに寄りかかってパンをほおばっていた那月が声をかける。


「なんだよ」


「お前、いつ香里奈ちゃんに告るわけ?」

ングッ


「ゲホッ、ゲホッ」

思わず吹きそうになった俺は無理やりパンをのみこみ、咳き込んでしまった。


「おー大丈夫かー?」

原因の奴はそうのんきに言った。


「ゲホッ、誰、の、せい、ゲホッ、だ、と思っ、ゲホッ、てんだよ」


「だってお前全然いわねーんだもん。あんだけ一緒にいといて」


「関係ねーだろ」


「恋人役とかしてるくせに」


「タイミングってもんがあるだろ」


「お前はそのタイミングとやらをどれだけ見逃してんだよ」

うっ、そういわれると何も言えない。


「香里奈ちゃん、勘違いしてるぞ?」


「香里奈が?なにを」

勘違いするようなこと、あるか?


「いろいろ」


「てか、なんでお前が知ってんだよ」


「えー?なんでだと思うー?」

からかうように、ニヤニヤして言ってきた。


「むかつく」

最近変だ。このふたり。

香里奈が珍しく名前で呼んだり、香里奈がいきなり俺から離れようとしたり、意味わかんね―こと言って来たり…


「お前、香里奈になに吹き込んだんだよ」


「おいおい、俺のせいかよ」


「お前しかいねーだろ」


「自分のせいっていう可能性は?」

俺の?


「香里奈ちゃんに、隠し事ばっかしてるから、勘違いされんだよ」


「…」

それは否定できない。


「いくら鈍い香里奈ちゃんでも、いつかは勘づかれるぞ?どれだけお前が隠すのがうまかったとしても、お前らは、幼なじみなんだから」

そんなこと、わかってる。

香里奈にいつかはバレることも。

話さなきゃいけないことも。

全部…


「現実なんて、自分が思い描いた通りにはいかねぇんだよ」

いつもはふざけている那月が妙に真剣に言ったその言葉。

だからだろうか…

なぜか、心に残ったんだ。



理想と現実。

それは、近いもので、きっとなによりも遠い。

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