夢色約束
「おまたせしました」

セリフの確認を一通り終えたころ、ラフな格好になった光がやってきた。


「どうしました?お嬢様。そんなお顔をされて…」


「いや、家でそんな恰好の光を見るの、初めてだなと思って」

風邪の時はほとんどベッドの中で恰好までは見てないし。

そんな余裕もなかったしね。


「そういえば、そうですね」


「じゃあ、敬語もやめて?」


「お嬢様」

たしなめるように言う。


「だって、今は執事の光じゃなくて、幼なじみの、クラスメイトの光でしょう?」


「…わかりまし……わかった」

不器用に言った光がなんだか可愛くて笑ってしまった。

コツン


「いた!」

私の頭を光が軽く小突く。


「始めるぞ」

平然とした光は台本を出して言った。


「どこやるんだ?」


「どこでも…」


「お前の練習だろ?」

そうだった…


「じゃあ、始めからで…」


「ん、了解」

そういうと、光は台本を置いた。


「え!?もう覚えたの!?」


「当たり前だろ?」

光は委員長で仕事も多い…

私も実行委員の仕事は多いけど、光ほどじゃない。

成績だって、私は光に一度も勝てたことないし…


「光って、何者…」


「それは、一番近くにいたお前が一番よくわかるんじゃね?」

確かに…

意地悪く笑う光になんだか悔しくなって、私も必死になってセリフを叩き込んだ。

そして、光はどのシーンをやっても完ぺきに演技をこなし、セリフも間違えたり、忘れたりする姿どころか、噛んでいる姿さえもなかった。
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