『私』だけを見て欲しい
何があったか話してくれないけど、本人がそれでも学校行ってくれるならまあいいか…と大目に見てる。

とにかく私が働き続けない限り、子供との生活は維持できないんだから、頑張らないと…。


「お疲れ様ー…すいません、佐久田さん…手伝えなくて…」

サブリーダーの子が謝る。

「いいわよ。もう少ししたら終わるから。…早く帰ってあげて。娘さん待ってるんでしょ⁉︎ 」
「…はい…じゃあまた明日…失礼します…」

申し訳なさそうな顔してるけど、心の中はラッキーって所でしょ⁉︎
今日はご主人も帰り早い…って、朝からご機嫌だったもんね。


(…主人か…言ってみたいセリフだな…)

焦っても仕方ない気がしてきて、ノロリノロリ…とやり始める。
自分に夫がいた頃、「主人です」と言えるのは、主婦としての一つのステータスみたいなもんだった。

誰かに守られてるような気がして幸せだった。
幸せだと思える時期が、確かにあった。

……と思うんだけど…


「正直、もう忘れたなぁ。12年も経つと…」


振り返る過去が遠くなればなる程、記憶ってあやふあやになる。
別れた夫の名前は、今も書類提出上必要だから忘れないけど、必要がなければきっと忘れる。

(つまり、それくらい過去の話なんだよね。私にとって…)

夫と別れて実家へ戻ったあの日から、私には自分の人生を振り返る余裕なんかなくなった。
親権を確保する為に、どんどん、どんどん働いて、この会社に入り、パートから社員になって、キャリアを重ねて、サブリーダーになって、去年からはリーダーを任された…。
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