『私』だけを見て欲しい
3日間の休みが明けて、久しぶりに早く家を出た。
泰は1日ほど学校を休み、今日からまた学校へ行く…と言った。

「何かあったら、言ってくるのよ!」

絶対に助けだすつもりで励ました。
ツンツンした泰の態度は影を潜め、少しだけ素直な調子が戻ってきた。

「今日は定時に上がらせてもらうから、学校終わったら家にいてね」

持たされたカギをじ…と眺めてる。
初めてカギっ子になる。
これまではどんな時も、母が家にいたから。

「戸締りして出てよ!忘れないで!」

念押しする私をうるさそうに見送る。
この最近なかったことだけに、少し嬉しい。

晴れやかな気持ちで仕事場へ向かった。
でも、オフィスの前まで来ると、その気持ちは冷めていった…。

(もうすぐ、ここともお別れか…)

見上げる最上階。
あの部屋で仕事をする人とも、今月いっぱいでサヨナラ。
後任者が決まったら、私はいつ辞めてもいい。

(その前に、マネージャーに話さないと…)

辞める事情とこれまでのお礼。
全部一まとめにして、きちんと説明しなければ。

(できれば今日のうちに。伸ばせば伸ばす程、話しにくくなるから…)

意を決して中に入る。
更衣室のドアを開けると、金井ちゃんが着替えてた。

「結衣!久しぶり!」

ブラウスのボタンを留めながらやって来る。

「2、3日休んでたんでしょ⁉︎ どうしたの⁉︎ 体の調子でも壊した⁉︎ 大丈夫⁉︎ 」

< 126 / 176 >

この作品をシェア

pagetop