『私』だけを見て欲しい
ねっ?…とウインク。
マネージャーが赤くなった。

(…ウインクくらいでテレるの…⁉︎ )

自分の考えにハッとする。
…彼のことは、何も思わないんだった…。


「佐久田さん…」
「は、はいっ!」

マネージャーに向けてた視線を戻す。
ニッコリ笑った顔のまま、加賀谷さんはこう言いだした。

「貴女、うちのショールームで働いてみない?」
「えっ…『美粧』さんのショールーム!?」

つい反応してしまった。
私はまだ、ここの社員なのに。

「貴女の力が必要なの。是非考えてみて」
「考えてみてって…」

何が一体、どうなってるの!?
ショールームだとか、力が必要とか…訳が分からないんだけど…。

(これって…まさかヘッドハンティングじゃないよね…!?)

そんな訳ないか…と、マネージャーを見る。
ニヤついた顔が戻る。
もしかして、これは…この人がわざと……?


「…あ…あの…加賀谷さん…!」

エレベーターに乗り込もうとする二人を追いかけた。
ドアの閉まる瞬間…

「結衣…待て…!」

呼び捨てられて振り返る。
過去にしたい人が私を見てる。
優しい表情で…
何もかも包み込んでくれそうな目で……。


「……入って来ないで…」

そんな表情しないで。
そんな目で私を見ないで。

忘れられなくなるから…
離れたくなくなるから……

「…これ以上…入って来ないで下さい…」
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