『私』だけを見て欲しい
コイビトの顔
触れた唇の感触が残る。
顔を見合わせた途端、妙にテレた。

「なんか…ヘン…久しぶり過ぎて…」

呟く言葉を笑われた。

「…コメントに困るな」

男性にはいろいろ事情がある。
好きな人がいても体は別。
それは体験上、知ってる…。

「…具合、どうですか？」

顔色が良くなってる。
さっきより良いハズだ。

「…ラクになってきた…もう少し休んでいく…お前はフロアに戻っていいぞ…」
「この状況で？私…まだ何も聞いてませんよ⁉︎ さっきの加賀谷さんのお話…あれ何ですか⁉︎ 」

ショールームで働かないか…と言ってた。
寝耳に水な話。

「仕事…辞めるんだろ？だったらいいじゃないか。渡りに船だ…」
「良くありません！すぐ辞める訳でもないのに…！」

納得できない。いくら渡りに船だと言われても。

「…お前な、この就職難の時代に、３０過ぎた子持ちの女が、どこで働けるって言うんだ…。よく考えろ。困るのはお前じゃないぞ。家族だろ⁉︎ 」
「か…家族…ですけど…」

頭に浮かぶ２人の顔。

「で…でも！それはマネージャーとは関係ない……」
「うるさい！たまには人の言うことくらい、素直に聞け！」

唇を押さえられる。
丸っぽい指先に撫でられて、胸がドキン！と鳴った。

「…仕事のことは…お前のお母さんに頼まれたんだ…」
「母に⁉︎ 」

「お見舞いに伺った時…心配してた。自分が倒れたことで、きっと結衣が気にやむだろう…って。辞めたくもないのに、仕事を辞めると言ってる。言いだしたら聞かないから、俺になんとかして欲しい…って」
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