『私』だけを見て欲しい
「…仕事を続けるのは大変だけど、一生の宝になるから」
「一生の宝…?」

そんなもん?そんなふうに考えたこともなかった。

これまで私は、報酬を得るためだけに働いてきた。
家族の為に働いてた。
学費を稼いで、生活費を稼いで。
自分の為には使わないで、一生懸命、先のことだけ考えて…

仕事を続けることが、自分の為にはなるなんて考えは、一切持ったことなかった。

「…一生続けられる仕事に出会う事は難しいわ。でも、それに出会えたら無くしては駄目よ。私はそう思ってる…」
「はあ…」

『美粧』の営業は、この人にとって、そんな大事な仕事なんだろうか…?

(あ…そうか。そう言えば、社長みたいなもんだと拓斗さんが言ってたっけ…。あれ、ホントなのかな…)


「あの…」

聞き出しにくい。
この間の誘いもそうだけど、会ってまだ3回目だし…


「そうそう、拓ちゃんとはその後どう?」
「えっ⁉︎ 」

拓ちゃん⁉︎

「や、山崎マネージャーのことですか…?」
「そーよ!山崎拓斗!私たち大学の同級生なの!知ってるでしょ?」
「し、知ってます…」

聞いたから。彼に。

「会社では山崎さんなんて呼ぶけど、昔から拓ちゃんって呼んでるの!」
「そ、そうですか…」

仲いいんだ…。

「不満…?」
「い、いえ…別に…!」

ギクリとした。
一瞬、つまらない…と思った気持ち、見透かされた。
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