『私』だけを見て欲しい
「拓ちゃんと私のことならご心配しなく!ただのおトモダチ。呑みトモダチだから!」
「は…はあ…」

(呑みトモダチ…って、それが一番ヤバい間柄なんじゃないの⁉︎ )

苦い経験が蘇る。
元夫のことを思い出す。
あの人も相手のことを、そう言ってた。

『ただの同僚。呑み友達みたいなもん!』

それがそのうち本気になった。
だから、あんな事になった…。


(ヤダな…こんな気持ちになるの…)

誰も好きにならなかった頃は、何を聞いても別の世界のことみたいに思えた。
でも、今は違う。
目の前にいる美人は、好きな人の同級生で呑みトモダチで、仕事上のお得意さんでもある。

接点が多すぎる。
リスクが高すぎる。
好きになったらなったで、いらない気持ちが増えてくる。
疑いたくないのに、疑ってしまう。
この人達の過去に…私は入り込めないから。

「そんなに悩まなくてもいいって!あの人、貴女しか見てないから…!」
「えっ…⁉︎ 」

ドキッとさせられる。
笑う口元が喋った言葉。
暫く頭から離れなかった。

「拓ちゃん、貴女のこと、『一生懸命頑張るから好きだ…』って言ってたわ…」

呑みながらね…と話す。
そんなふうな言葉、言われたことない。
本人からは勿論、家族からも…。

「応援してくれる人がいるって羨ましいわ。私には少ないから」

大切にしてやってね…と託される。

「えっ…あの…」

戸惑う。
いきなりそんな事言われるても困る。
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