『私』だけを見て欲しい
裏切られて苦しい思いをするのはイヤ。
好きな人には、自分だけを見て欲しい。

「タクシーで帰りますから…平気です…」

迎えてくれる家族の所に帰ろう。
何も言わず、受け止めてくれる人達の元へ。


「…駄目だ。帰さない…」

ぎゅっと肩を抱かれた。
近づくカラダ。

…胸が、苦しい…


「離して…下さい…」

ウソをつかれる前に、
裏切られる前に、
完全に逃げられなくなる前に…

この人のことを…
自分から手離したい…


「マネージャーは…私のことを勘違いしてます…」

フラつきながら、彼から離れた。
ぼぅ…としてる私を心配そうに見てる。
その彼の言葉を使った。

「…ずっと、私だけを見てきたかもしれないけど…あれは、ホントの私じゃないです…」

会社での私も、家庭での私も、ホンモノの私じゃない。
何かの為に…誰かの為に…と頑張ってるのは、ホントの『佐久田結衣』じゃない。


『私』はもっとワガママで…
自分勝手な人間で…
人と話すのが苦手で…
仕事もキライで。

家庭の中におさまっていたくて。
好きな人と、ずっと一緒にいたくて。

何からも縛られず…
何もかも忘れて…

『私』だけを見てくれる人と…

恋の落ちたい…と、

ずっと…
ずっと…
考えてるような…

愚かな人間なの…。


そんなホントの私のことを、この人は何も知らない。
見せたことなんかない。
ほんの一瞬しか。
恋に落ちた…あの瞬間しか……
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