『私』だけを見て欲しい
「…家族にも…私にも…もう関わらないで下さい…」


ごめんなさい。
ホントにお世話になったのに。
貴方のおかげで、泰が変わったのに。

母のことも気遣ってくれたのに。
ホントの家族のように、接してくれたのに。


「…一人にして下さい……お願いします…」

頭を下げる。

会社の上司として見送って。
そして来週からは、取引先の人としてだけ付き合いましょう。

そしたら何も…
誰も…

傷つかないから……



「…そんな願い事……聞く訳ないだろ!!」

ぎゅっと手を握られた。
痛いくらいに掴まれてる。
本気で…怒ってる……?


「…俺はこれまで、ずっとお前の事だけを見てきた。強がってばかりいるお前が可愛くて、いつかお前を幸せにしてやろう…ずっとそう思ってきたのに、ここで手離せるか!!」

怒ってる顔が歪む。
もしかして、また発作…?

「マネージャー…」

心配して声をかけた。

目から…涙が…

「…俺を1人にするな…一緒に…幸せになろう…」

震える声が聞こえた。
解けてく手のひら。
ぎゅっ…と握った。


「…もう一度…!…もう一度、聞かせて下さい……今…なんて…?」

信じられない気持ちが先走る。
離れなければ…と思う気持ちより先に、今、目の前にいる人から貰った言葉が、もう一度聞きたい…。

「…幸せになろう…どんな時も…結衣と一緒にいたい…」

大のオトナが泣いてる。
私の師匠で、尊敬できる人なのに。
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