『私』だけを見て欲しい
いつもなんでも教えてくれた。
この人のくれる言葉が、自信をくれた。

弱い自分を励まして、強く見せることができた。
思いきったことにも挑戦できた。

だから、泰にも会わせた。
母にも…説明できた。

仕事上だけじゃない。
これからもずっと…
一緒にいたいと思う気持ちが…

心のどこかにあったから…。


…例えば傷つけられても、
泣くことがあっても、

今…
この一瞬だけ…

『私』を見てくれるなら…


「…どこへも行かないと約束して…浮気しないと誓って…。傷つきたくない…!もう…二度と…!」


あんな恐ろしい声を出したくない。
怖い思いはしたくない。
誰かに裏切られて、石を飲み込むような苦しさを感じたくない。

泰を寂しい子にさせたくない。
母に申し訳ない思いを抱きたくない。
手荷物をぶら下げて、重くて、身動きも出来ない私だけど…。


「…拓斗さんと生きたいの……でも…何も手離せない……」


ワガママばかり言ってごめんなさい…
これが、
ホントの…

『私』なんです……


お酒の力を借りて、やっと見せれるくらいの小心者。
臆病で怖がりで、親になるのも、娘を続けるのもツラい。

…どこからも逃げれない。
何も捨てれない。
新しいものを手にするのは怖い。
変わっていくのが恐ろしい。

だけど…


「拓斗さんと…生きたい……」


お母さん…
泰良…

(ごめんなさい…許して……)

一緒になりたいの…
一つの形に収まりたいの…


どんなに後悔しても…
今日だけでも…

この人の胸の中で…
ゆっくりと休みたい…

母も娘も忘れて…

『佐久田結衣』として……
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