『私』だけを見て欲しい
アナタの顔…
目が覚めたら、静かな寝息が聞こえた。

泰が幼い頃、一緒にお昼寝したことを思い出す。
愛する人の側で眠れる安心感。
それをずっと、求めてたように思う。

そ…と寄り添う。
温かい人肌に触れる。
この瞬間が、何より一番嬉しい…


加賀谷さんとのことを聞いてみたかった。
前の結婚でできた娘さんのことも知りたかった。
踏み込んで聞いていいのかどうか、迷ったけど、やはりハッキリしておきたくて…。



「加賀谷さんと一緒に住んでた…と、『美粧』のショールームで聞きました。ホントなんですか…?」

ギクリとした顔を見せた。
何を聞かされても驚かない…。
そんな心構えでいた

「…本当だけど…少し違う…。結衣が思ってるような仲じゃない…」

ご両親が亡くなって、呆然としてた頃のこと…


『私んトコに来る⁉︎ 』

呑み友達だった加賀谷さんに誘われた。

『今の拓ちゃんなら安全そう。元気になるまで居てもイイよ!』


「……留守番よろしく…って感じでさ。何でか…と思ったら、手術するから…とか言うんだ…」

ホテルの天井見上げてた顔がこっち向く。
初めて見るような真剣な眼差し。
嘘じゃない…と伝えてるみたいだった。

「加賀谷は…胃がんの初期を患ってた。高校の頃から相続問題で家庭内が荒れてて…あいつ自身、相当酒に逃げてたから…」

タバコも吸ってたし…と呟く。

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