『私』だけを見て欲しい
「商品を立体的に並べるなんて、簡単にはできないよ。佐久田さんの作るディスプレイには奥行きがある。だから、どの商品も活きて見えるんだ」
「はぁ…それはどうも…」

(どんなに二人して私を褒めても、何も出ないからね)

捻くれてる。
私は人から褒められるのが苦手。
素直じゃないとも言われる。
でも、それだけ自分に自信がないから。

「そんな佐久田さんにいい仕事をやろう」

山崎マネージャーがニヤつく。
さっき言いたがってた事だな…と、察しがついた。

「今日、午後から大手メーカーの『美粧』さんが来る。ガーデニング用品の新シリーズを売り込みに来るみたいだけど、同席するかい?」
「『美粧』さんの新商品…」


大手メーカーの『美粧』

主に陶器製品を扱う会社。
花瓶を製造したのが始まりらしく、商品自体の質もいい。
塗りも確かで、センスもピカイチ。
全く何も知らないでこの業界に入った私にも、この会社の商品だけは、他のとは違うと区別がついた。

しかも、今回はガーデニング用品の新シリーズ。
寄せ植えを趣味にしてた私としては、ちょっと惹かれる話。

「…同席してもいいんですか⁉︎ 」

普段メーカーとの話し合いに参加するのは、マネージャーのようなバイヤー責任者だけ。
私みたいな売り場担当者は、参加させてもらえない。

「いいよ。今回は特別。佐久田さんのセンスの良さで、商品を品定めしてやって欲しい」
「そんな…品定めなんて…」
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