『私』だけを見て欲しい
恐れ多い。相手は大きな工場を持つメーカーなのに。

「でも…同席させてもらえるならお願いします。私、なるべく黙っておきますから」

まだ未発売の商品を見せてもらえるだけで有難い。
それが大好きなガーデニング用品ってだけで、かなり気分も盛り上がる。

「じゃあ2時になったら、最上階の事務所に来て」
「はい…!伺います!」

声が1オクターブ上がる。
昨日の夜から感じてた仕事の虚しさ、一気に吹き飛んだ。


「…スゴいですねぇ。佐久田さん…」

紗世ちゃんがため息。

「あの山崎さんからも一目位置かれてる上に、今日は商談に参加なんて。次期バイヤーにもなれる勢いじゃありませんか⁉︎ 」
「なれないわよ!さっき言ったでしょ。今回は特別…って」

マネージャーの発言繰り返す。

「それでもいいなぁ…」

紗世ちゃんはため息をつきながら、何度も何度も同じことを言った。


ウキウキしながらお昼を挟んで、午後の仕事を始める。
毎日、午後1時になったら出てくる売上データ。
このトップ30の中に、『美粧』の商品が幾つも入ってる。

雑貨フロアには欠かせないメーカーさん。
今日持って来る商品も、今からとても楽しみ。


「…そろそろ行ってくるから」

紗世ちゃんに売り場を任せて最上階へ行く。
ビルの7階。階段上がってすぐに着く。

「…失礼します」

バイヤーやマネージャーが仕事する事務所のドアをノックして開ける。
山崎マネージャーは奥から2番目に座ってる。
つまり、それだけトップってこと。
< 24 / 176 >

この作品をシェア

pagetop