『私』だけを見て欲しい
普段はいつも眠そうにしてるのに、ここではちゃんと仕事してるみたい。
初めて見たけど、商談前はちゃんと上着を着るんだ。


「…行こうか。もうすぐ来るって連絡あったから」
「はい…」

ドキドキする。
マネージャーのスーツ姿に…ではなくて、初めての商談参加に。

面談室前で『美粧』さんを待つ。
大手メーカーさんだから、中では待たないんだそうだ。

「機嫌損ねると、売りに来てもらえなくなるだろう?」

言ってることが本気か嘘かは分からない。
でも、ひたすら指示に従って、商品のいいトコだけ見よう。

エレベーターの中から出てくる2人組。
1人はメガネをかけた男性。もう1人は、目の醒めるような美人。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

あの山崎マネージャーが丁寧語。
相手が相手だと、言葉遣いまで違うらしい。

「こんにちは山崎さん。…どうしたんですか?部屋の外で待つなんて、初めてですよ?」

美人がニコニコしながら聞いた。
早速嘘がバレる。
マネージャーは軽く咳払いをして、「たまにはいいじゃないですか」とごまかした。

「…おや、そちらの方は?」

メガネの男性がこっちを見る。

「うちの雑貨フロアの責任者で、佐久田と申します。今日は新商品を一緒に品定めしてもらおうと思って呼びました。同席させて構いませんか?」

紹介されたから、慌てて一礼した。
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