『私』だけを見て欲しい
「山崎さんご推薦ってことね。いいですよ。…初めまして佐久田さん。『美粧』の営業を務めております、「加賀谷(かがや)」と申します。こっちは私の部下の戸部(とべ)」

美人に紹介にされて、メガネの男性が名刺を差し出した。

「戸部です。よろしくお願いします」
「あ…ありがとうございます。…すみません、私は名刺がなくて…」

2人分の名刺片手に謝る。 それだけ私が下っ端ってことだ。

「いいわよ。名刺なんか無くても。山崎さんのお気に入りだから、ここに呼ばれたってことでしょ⁉︎ 」
「えっ…」
「…違いますよ。加賀谷さん。こう見えてこいつは結構仕事のデキる社員なんです。だから今回、呼びました」

面談室のドアを開けながら、マネージャーが話す。
私は自分が仕事のデキる女だと思ったことないから、寝耳に水みたいな感覚に陥った。

「…今回はガーデニング用品の新シリーズでしたよね?」

テーブルに着くなり本題に入る。
『美粧』の営業2人組は、「そうです」と頷いて商品を出し始めた。


(…わぁ…可愛い…)

声に出さないけど、思わず息が漏れた。

「イメージは雪の結晶です。これから夏が来るけど、冬に向けて長く売り続けていきたいというのが狙いです」
「…分かります。ガーデニング用品は季節を問いませんからね」

涼しい気なホワイトと淡いブルーの色調。
その中に描かれてる黒いネコの絵。
浮き彫りのように浮かび上がってて、なんとも言えず可愛らしい。
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