『私』だけを見て欲しい
「いえ…そうではないですけど…このネコちゃんは可愛いです。いいアイデアだと思います」

クスッと笑われた。
子供みたいな意見だったかな…と少し恥ずかしくなった。

「…ですってよ。どうです?山崎さん、ご自分のアイデアが評価された気分は?」
「えっ…⁉︎ 」

ギョッとして隣を見た。
真っ赤な顔を手で隠そうとする、山崎マネージャーの姿があった。

「まさか…このネコのアイデアって、マネージャーが…⁉︎」

(嘘ぉ…!信じらんない…!)

目が丸くなる。
半ば眠たそうな顔つきで、売り場にやって来る人の考える事とは、思いつきもしなかった。

「加賀谷さん…それ、シークレットですから…」

…マジですか⁉︎ って感じ。
驚いた顔のままマネージャーを見続ける私に、メガネの戸部さんが付け加えた。

「このネコのモデル、山崎さん家で飼ってるネコなんですよ」
「へっ…⁉︎ 」

ネコ飼い⁉︎ このマネージャーが…⁉︎

「とっても可愛いから商品アイデアに使ってくれって、写真まで見せられて…意外でしょう?」
「は…はい…とても意外です…」

答えながらマネージャーの様子を見る。
今や恥ずかしくて顔も上げれないみたい。
こんな人だったなんて、ちっとも知らなかった。

「…山崎さん、あなたの部下も大絶賛の雪の結晶シリーズ、どれ位置いて頂けます?」

加賀谷さんが微笑みながら問いかける。
山崎マネージャーは口元を手で隠しながら、

「とりあえず、全商品を10セット」

…と呟いた。
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