『私』だけを見て欲しい
「あのね…そんな心配しなくても、社内じゃ殆ど顔合わさないでしょ⁉︎ 」

居酒屋に行ってからで十分。
どうせすぐにバレるんだから、演技する必要もナシ。

「ちぇっ。佐久田さんは冷めてるな…」

ええ、ええ。冷めてますとも。
バツイチになった原因考えたら、当たり前でしょ。

「今夜のことなら計算しなくても大丈夫だと思う。どうせ、すぐにバレるんだし…」

その場しのぎに付き合うだけ。誰も信用しない嘘。

「バレなかったらどうする⁉︎ そのまま付き合ってくれる⁉︎ 」
「ジョーダン!それだけは絶対にないから!」

彼みたいなモテ男くんと付き合いだしたらタイヘン。
自惚れてもヤな女だし、堂々としてればイジメられる。
ロクな事がないって分かってるから、社内恋愛の対象にもならない。

「…佐久田さんって、可愛げねぇ。ヨロイ着た兵士みたい」
「はいはい。なんとでも言って!その代わり彼女役はやめるよ⁉︎ 」

形勢はこっちが断然有利。
今更キャンセルなんてできないから。

「それは困る!スンマセン!言い過ぎました!」

コロコロ態度変わる人。忙しいな…。

「分かればよろしい。…じゃあ今夜、また会場で!」

バイバイ…と手を振る。
『れんや』君が真似。

(あはっ…可愛い。やっぱ犬みたい…)

金井ちゃんに聞いた所では、『れんや』君がモテる理由は、天然で愛想が良くて、褒め上手だかららしい。
結構口が悪いのに、人を褒めることに関してはやたらと上手くて、女子達はすぐに虜になってしまうんだそうだ。
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