『私』だけを見て欲しい
彼女なんて立場に12年間なった事もないから、どんな顔していいかも分からない。
ウソをつくのも下手だし、真実を話すのもバカらしい気がする。

(もういい…どうせお酒の席だし、幹事としての役目くらいに考えとこ…)


諦めてその後も『れんや』君の隣にいた。
彼は私のことを、こんなふうに褒めた。

「何にでも熱心なんだ…人がどうでもいいって思うようなことも一所懸命だし。そんなトコにホレた…ってか、とにかくオレ、佐久ちゃんのファン1号から始めてるんだー…」

そこが恋が始まりみたいな言い方。
褒め上手…の意味がなんとなく理解できた。

(実際ファンになったとか言ってたし、あながちウソじゃないか…)

ファンはファンでも、ディスプレイのファン。
私自身のファンになってる訳じゃない。

「佐久田さんは?蓮也くんのどこが気に入ったんですかー?」

紗世ちゃんの余計な質問。
お局様の視線が刺さる。
『れんや』君の祈るのような眼差し。
どうしようか…と、一瞬迷った。

「…私は……」

心臓がドキドキする。
答えは用意してなかったけど、思ってるままを伝えた。

「私の力を認めてくれてる…って言うか、ストレートに褒めてくれるとこが嬉しくて…」

誰にでもそうじゃん…と言われるのは覚悟の上だった。
ふん!…って感じのお局様の態度。
どうやら彼女に対してだけは、褒め言葉なんか無いらしい。

「蓮也くん羨ましー!佐久田さんが男の人のこと褒めるのなんか初めて聞いたよー!」
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