『私』だけを見て欲しい
Act.7 カレの顔
午後9時半。
全体会はお開き。


「お疲れ様でしたー」

半数近くはそこで解散。残りは二次会へ行く。

「私はここで…」

さっさと逃げようとする。
全体会に付き合えば、それで十分…と思ったから。

「ダーメ!」

『れんや』君はしつこい。
これ以上、私に何を求めてるの⁉︎

「あのね…」

私は家庭があるの…と言いたくなった。
それを遮る彼のセリフ。

「一緒に飲も。二人きりで」

ギクッとするような言葉。
こんなモテ男くんと二人だけでお酒。
フツウなら嬉しいことなんだろうけど、何気にヤダ。

「今度じゃ…駄目?」

お願い…って眼差しで訴える。
でも、天然な彼には伝わらない。

「ダーメ!今夜!」

(相当酔ってるの⁉︎ …それとも演技なの⁉︎ )

分からないから悩む。
『れんや』君は私の手を引っ張って、皆とは逆の方向へ歩き出した。

ざわざわ…とすれ違う人の波やクルマの音。
週末の夜だから結構な人混みの中、歩き続ける。
握られてる指先があったかい。
こんな感じの温かさ、久しぶりだ…。


「…助かりました…」

少しだけ先行く『れんや』君が呟いた。

「佐久田さんが隣にいてくれたお蔭で、心強かったです…」

どうやらそれは本音みたい。
言われて何だかホッとする。
引き受けて良かった…と、やっと思えた。

「こっちこそ…なかなか味わえない感覚で楽しかったよ」
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